人情

人情



闇の底で猫をくびり殺した、その手で
今朝もひげを剃る、戦闘機の
タッチアンドゴーの爆音で窓ガラスが慄える

近頃じゃ人情も
二束三文であがなえる、逆にいえば
人情売りには辛い渡世だ

学生時代にライフルをやっていて
今は銀行員の隣人が
出勤してゆく鉄扉のおと

浴室から戻ってくると
テーブルの上に
血塗れの新聞が広げてある

戦死したおとうとの仕業だなと思って
私は折目正しく
雑巾でインクを拭う

付けっ放しのテレビから
毀れかけた大統領が
世界は平和だと演説している

パーティーをこれまで
「党」と訳してきたが
あいまいになった

小学校のチャイムみたいに
時代を区切ってくれるものもないし
先生もとうに死んだ

嘆くことが仕事の批評家が
三人集まって、三様に嘆く
嘆けばいいさ私はそのあいだに

「希望」についての論文を百本書き、
人情を売りもし、
儚い武器でテロルを起こす