狂れる

狂れる



風貌が低く、
呼び入れていた
夕刻だった
草の繊維で手を切り、
あえいだ
(さらに深くゆかねばならない…)
足下の砂が崩れた
スニーカーが片方打ち捨てられている
見えない連れのために、私は
胸に火を擦った
いなくなってしまう前に
無くなってしまう前に
鉄塔の影が浮んだ
ここを越えていく
風がセスナの明るい
軽い音を運び、
世界は暗転してゆく…
私は「おう」と叫びもんどりうった
壊れていくのなら、はじめに
私から壊れていこう
夕刻の坂を転げ落ちていこう
夏から秋へ、
春から夏へ、
不安のように飛び交う虻を
連れよ、叩き殺せ
浮ぶ影がじりじりと暮れる
長い転生が始まる
筆写された本の
黒い頁をちぎり喰む…
「殴るなら殴れ」と私は
民衆に怒鳴っていたのだ