できなさ

パチンコ・ラスベガスは見つけられなかった 本当は

見つけたくなかったのかもしれない

マンションの入口にあの人と待ち合わせたとき

最後の夜になると気付いていたから

ジュースおごってくれない? と言われて

かわりにキスしてと頼んだ

(のは映画のワンシーンか?)

もう公園のベンチから

星空に飛行機は飛び立たない

小さい頃台北に住んでいたから

休みになるといつも飛行機で日本に帰って来たんだよってあの人は言った

タバコの吸いガラを

鴨川の土手に弾き捨てて

草の上に二人仰向けに寝転んでいた

雲を見上げていると

空の上にいるみたいだね、と笑っていた

家族の話をしてくれた、昔好きだった人の話も

酔っ払っていたから

みんなと別れた後で

ミネラルウォーターを買って

何となく二人きりになったんだ

初めて好きだということを告げたのは公衆電話からだった

どこまでが性の気持ちか分からないと言ったとき、驚いてすぐに切られてしまったけど

翌日会えることになって、友だちが欲しいなーと淋しそうだった

自分には本当の友だちはあまりいないと言いながら

屋上のフェンス越しに見下ろしていた町は

何才も歳上のあの人がもう何年も暮らしている場所なのだ

もっとあの人のことが知りたいと思った

あの人の生活を知りたいと思った

目の前のあの人の

生き方を知りたいと思って、

胸がギュッと締め付けられた

僕が「男」で

あの人が「女」だったから

胸に耳を当てて心臓の鼓動を聴くだけでは物足りなくて

喫茶店でアイスコーヒーを飲みながらあの人は後悔していたけど

窓際のテーブルだったから

僕は赤いテールランプの列を眺めているだけだった

もっと一生懸命に答えを探せばよかったのだろうか? 自分なりの答えを

真夜中突然会いたくなって

暗い疎水沿いを並んで歩いた夜も

螢がいるとあの人は言ったけど結局見つけられなかったのに

(「見つけられなかった」のだろうか、本当は

「見つけたくなかった」のか……僕は)

できないんじゃなくてしたくないんじゃないの、とあの人は怒って強い口調で言っていた

自分が壊れそうなんだよ、と僕は嘘の言い訳をした

最後の夜、きっとどこかにあるはずのパチンコ・ラスベガスのネオンが頭の中で稲妻みたいに明るく光って

内心は、もっとバイトもして経済的に自立しようと思ったし、

「性」も「恋愛」も越えて生きてゆきたいと思ったし、

何よりも「詩人」になるよりも先に生きるってことがすごく大切だと気付かされた

フィリップ・モリス味のキスをした後で

でも恋愛のできなさが逆に詩人らしいよね、とあの人は言ったこともあったけど……

昔見た映画もやっぱり女の人がすごく歳上で、夏の終わりに二人は

別れちゃうんだよねーとあの人がベッドの上でくすぐったそうに笑った朝、

自転車に二人乗りしてスピードを上げて滑り降りた坂道も

ものすごく青い空と真夏の太陽の下だった

これから美容室に行くと言って

そんなに長くもない髪を片手で気にしながら

あの人とは

あの日は駅で別れたのだ